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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)63号 判決

事実及び理由

一  請求原因一ないし四の事実、すなわち、本願考案についてされた実用新案登録出願から補正却下決定及び本件審決の成立に至る特許庁における手続の経緯、本願考案の補正前及び補正後の登録請求の範囲の記載、補正却下決定の理由の要点並びに本件審決の理由に関する事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  本件審決の取消事由の存否につき判断する。

(一)  本願考案の要旨認定(補正の却下)について

本件審決が相当とした補正却下決定に原告主張の違法があるか否かにつき検討するに、以下のとおり、原告の主張はいずれも採用することができず、この点について本件審決に誤りはない。

(1)  原告が、補正にかかる本願考案と引用刊行物に記載されている装置との間に存する構成上の差異として主張する点についてみるに、当事者間に争いのない本願考案における補正後の登録請求の範囲の記載並びに成立に争いのない甲第三号証(本願考案の実用新案公報)、同第四号証(本願考案の昭和四七年二月二一日付手続補正書)によれば、補正後の本願考案においては、原告主張のとおり、(イ)装置の全周を囲んでいる外枠を有し、(ロ)外枠下端部周辺全部にわたり天井板端部を係合載置するための外方に突出する横向きの鉤状突縁が設けられ、(ハ)内枠が外枠の内側に係止されていることが認められる。なお、被告及び補助参加人は、補正後の本願考案は原告主張のような構成に限定されない旨主張するが、補正後の登録請求の範囲には、外枠を装置の一部分にのみ設けるとか、鉤状突縁を外枠の一部にのみ設けるとの記載がないばかりでなく、前掲甲第三号証によれば、本願考案の明細書中、考案の詳細な説明の項には、鉤状突縁を外枠主体の下端部に位置せしめ、天井点検口の縁部仕上げとして天井面に表わしており、周囲の天井板の端部をこの鉤状突縁に載置して支持するから、天井板端部と外枠との掛合部分が隠蔽される旨の記載があることが認められ、これらの記載に徴すると、外枠は装置の全周を囲んで設けられ、鉤状突縁も外枠の周辺全部に設けられていることを当然の前提としているものと認めることができる。

しかしながら、いずれも成立に争いのない甲第七号証、丙第二号証の二、三(いずれも引用刊行物)によれば、引用刊行物に記載されている装置においても、本願考案における前示(イ)(ロ)(ハ)の構成を有していることが認められる。

したがつて、補正後の本願考案と引用刊行物記載のものとの間には、原告主張のごとき構成上の差異は存しない。

(2)  原告は、天井点検口の外枠と天井の明り取り用枠とはきわめて親近関係にあるものとの認定が誤りであると主張する。

成立に争いのない甲第一六号証の一ないし五によれば、天井点検口と天井の明り取り装置とは、建築資材の分類上異なるものとして扱われる場合があることは認めうるけれども、前掲甲第三号証、第七号証及びいずれも成立に争いのない甲第八号証、第九号証の一ないし三、丙第四号証並びに弁論の全趣旨によれば、天井点検口の外枠と天井の明り取り用枠とは、いずれも建物の天井の一部に穿設された開口部に設置される枠体という点で一致しており、また、天井点検口は当然に開閉を必要とするため、枠体に内枠を開閉できるように取付ける構造のものが多く、一方、天井の明り取り装置においても開閉を必要とする場合があつて枠体に内枠を開閉自在に取付ける構造のものがあり、両者は構造においてもきわめて類似していることが認められるから、天井点検口の外枠と天井の明り取り用枠とは技術的に親近関係があるといつても誤りでなく、原告の右主張は理由がない。

(3)  また、原告は、天井点検口において外枠の内側に内枠を回動自在に係止することが従来周知でなかつた旨主張する。

一般に、建築関係の技術分野において、建物に設置される扉、窓等のように外枠の内側に内枠を回動自在に係止する構造のものが従来周知であつたことは公知の事実であるところ、前掲甲第八号証、第九号証の一ないし三によれば、天井点検口においても外枠の内側に内枠を回動自在に係止することは、本願考案の登録出願前すでに周知であつたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。したがつて、原告の右主張も採用できない。

(4)  原告は、補正後の本願考案が(a)ないし(f)の顕著な作用効果を奏する旨主張する。

前掲甲第三号証、第四号証によれば、補正にかかる本願考案は、周囲の天井板の端部を外枠主体の下端部の鉤状突縁上に載置して支持するものであるから、周囲の天井板の端部と外枠との掛合部分が隠蔽され、天井板の端部が天井面には露出せず、美観を保つことができること((a))が認められる。しかしながら、前掲甲第七号証、丙第二号証の三によれば、引用刊行物のものも、外枠の下端部に鉤状突縁があり、これに天井板を係合載置する構成となつているから、(a)と同じ作用効果を奏するものであることが認められる。したがつて、(a)の作用効果は特段顕著なものとはいえない。

(b)の作用効果については、補正にかかる本願考案のみが奏しうる効果であるとは認めえない。すなわち、前掲甲第三号証、第四号証によれば、本願考案の明細書中、考案の詳細な説明の項には、天井点検口を吊持せしめた後天井板を張設することなく、任意の順序で取付けることができ、施工が非常に簡便かつ容易である旨記載されていることが、認められるが、引用刊行物に記載された装置も同様の作用効果を有するものであることは、前掲甲第七号証、丙第二号証の三により認められるから、(b)をもつて補正にかかる本願考案の奏しうる顕著な作用効果であるということはできない。

前掲甲第三号証、第四号証によれば、補正にかかる本願考案は、外枠主体の下端部に設けられた外方に突出する鉤状突縁上に周囲の天井板端部を係合載置し、外枠の内側には、内方に突出する鉤状突縁上に天井板を載置した内枠を回動自在に係止する構成であるから、その構成上、(c)及び(d)の作用効果を奏することが認められる。しかし、前掲甲第七号証、丙第二号証の二、三によれば、引用刊行物に記載された装置も、外枠の下端部に設けられた外方に突出する鉤状突縁上に周囲の天井板端部を係合載置し、外枠の内側には、内方に突出する鉤状突縁上に板状体(格子板または透光板)を載置した内枠を回動自在に係止する構成であるから、開閉が容易であり、装置の内側及び周囲の天井板が損傷汚損されないという(c)及び(d)とほぼ同様の作用効果を収めうることが認められ、したがつて、(c)及び(d)をもつて補正にかかる本願考案の顕著な効果であるとすることはできない。

補正後の登録請求の範囲の記載には、内枠を係止すべき回転軸の位置を限定する記載がなく、また、前掲甲第三号証、第四号証によれば、回転軸が天井板の内部に隠蔽されるので美観を害しないことに関し明細書中に何らの記載もないことが明らかであるから(e)については、補正後の本願考案の作用効果とは認めえない。

(f)の作用効果については、補正後の本願考案における構成との関係が不明であり、明細書には右の作用効果に関し何らの記載もないから、結局、(f)の作用効果が本願考案の奏する顕著な作用効果であると認定することはできない。

以上のとおり、原告の主張する(a)ないし(f)の作用効果はいずれも補正にかかる本願考案が奏しうる顕著な作用効果であるとは認められないから、この点につき看過誤認があるとすることはできない。

(二)  本願考案の要旨(補正前の登録請求の範囲)の解釈について

原告は、本願考案の要旨が補正前の登録請求の範囲記載のとおりであるとしても、その「内枠を係止し」とは、「内枠を回転軸により回動自在に軸着すること」と解すべきである旨主張するが、原告の右主張は理由がなく、採用できない。

すなわち、本願考案における補正前の登録請求の範囲には、「係止」の文言は記載されていても、「内枠を回転軸により回動自在に軸着すること」については記載されていないところ、右登録請求の範囲の記載上、「係止」の意味が不明確であつたり、他の構成要件との関係において矛盾があるものとは認め難く、したがつて、「係止」の意味を原告主張のごとく限定すべきものとは解されない。

もつとも、前掲甲第三号証によれば、明細書中考案の詳細な説明の項には、外枠1の内側に、内枠4を回転軸により回動自在に軸着して設ける旨の記載部分があるけれども、この構成によつて直接生ずる作用効果につき明確な記載はなく、明細書添付の図面表示(別紙図面(〔編註〕省略)A参照)のうちどの部分が回転軸であるかの説明すら記載されておらず、右記載部分は、「係止」の方法に関する一実施例を示したにすぎないものと認められ、前記のとおり、登録請求の範囲の記載に格別不合理な点や矛盾点がないことに照しても、「係止」の態様を右実施例のものに限定しなければならない必然性は窺いえない。

さらに、原告は、右主張の根拠として、登録請求の範囲の記載において「係止」と「係合載置」とを区別して用いていることを挙げているが、右の各文言を区別して用いているからといつて、「係止」の意味が当然に原告主張のように限定されるものでないことは明らかである。また、原告は、「係止」という言葉が一般に「つなぎとめること」を意味し、回転軸により回動自在に軸着した状態は「つなぎとめること」にほかならないと主張するが、仮りに、右主張が正しいとしても、「つなぎとめること」は、回転軸により回動自在に軸着することのみを意味するものではなく、より広い多様な内容を包含していることが明らかであるから、「係止」の一般的用語法をもつて、原告主張のように限定解釈すべき根拠とすることもできない。

(三)  本願考案と引用例のものとの対比判断について

原告は、本件審決が本願考案と引用例のものとの対比判断を誤つた旨主張するが、右主張も、以下に述べるとおり理由がなく、本件審決に誤りがあるとはいえない。

(1)(イ)  前掲甲第三号証によれば、本願考案においては、その要旨とする構成上、外枠主体は、天井開口部の周囲に設けられる枠体であつて、その下端部に天井板端部を係合載置する外方横向きに突出する鉤状突縁を有するものであるが、原告の主張するように、外枠主体とその下端部の突縁とが一体に形成された単一の部材でなければならないとの限定は何らされていないことが認められる。そして、成立に争いのない甲第六号証(引用例)によれば、引用例の装置は、台枠2、吊下金具7及び透光板枠4によつて組立てられる枠体が天井開口部の周囲に設けられ、その下端部には透光板枠の折返し部6が天井板端部を係合載置するための外方横向きの鉤状突縁となつて存在することが認められ(別紙図面B参照)、引用例のものにおいても、本願考案における外枠主体とその下端部にある鉤状突縁に相当する構成を備えているというべきであるから、両者の間にはこの点において格別の差異はない。

(ロ) 前記(二)において判断したとおり、本願考案において「内枠を係止し」とは、「内枠を回転軸によつて回動自在に軸着する」ことのみに限定されるものではないから、右限定の存することを前提とする原告の主張は失当である。

また、前掲甲第三号証から明らかなとおり、本願考案においては「係止」について具体的限定はなく、「内枠を係止」するとは、内枠がみだりに外れないように支え止めることと解することができるところ、前掲甲第六号証によれば、引用例のものにおいても、透光板が透光板枠の鍔部に載置され、みだりに外れないように支え止められていることが認められるから、本件審決が引用例のものにおいても透光板が係止されていると認定したことに誤りはない。

なお、原告は、引用例のものにおける透光板が本願考案における天井板を載置した内枠に該当せず、引用例のものは内枠を係止することが予定されていない旨主張するが、本件審決は、外枠の内側に係止する対象物が、本願考案では内枠であり、引用例のものでは透光板である点において相違することを認定したうえ、右相違点に対する判断をしているのであつて、原告主張のように右相違点を看過しているものではないし、その判断も、後記のとおり、誤りとはいえないものである。

(2)  原告は、天井点検口と透光板取付け装置とは技術分野を異にし、本件審決が認定するように親近関係があるとはいえない旨主張するけれども、前掲甲第三号証、第六号証、第八号証、第九号証の一ないし三、丙第四号証及び成立に争いのない丙第三号証によれば、両者は、いずれも建物の天井の一部に穿設した開口部に設置される構造物である点において一致し、構造、施工態様においてきわめて類似していることが認められ、両者は技術的に親近関係にあるということができるから(前記(一)(2)と同断)、この点に関する本件審決の判断に誤りはない。

(3)  天井点検口において外枠の内側に内枠を回動自在に係止することが従来周知であつたことは、前記(一)(3)において判断したとおりであり、したがつて、天井点検口において外枠の内側に内枠を係止することが従来周知の事項であつたことはいうまでもないから、これに反する原告の主張は理由がない。

(4)  原告は、本願考案は引用例の装置が奏しえない(a)ないし(f)の顕著な作用効果を奏すると主張する。

前掲甲第三号証によれば、本願考案は、外枠主体の下端部に設けられた鉤状突縁上に周囲の天井板端部を係合載置する構成であるから、(a)の作用効果を奏するものであることが認められるけれども、前掲甲第六号証によれば、引用例の装置も、枠体の下端部に透光板枠の折返し部が外方に突出した鉤状突縁となつて存在し、これに周囲の天井板端部を係合載置するものであるから、(a)と同じ作用効果を収めうることが認められ、したがつて、(a)が本願考案の奏する特段の作用効果であるということはできない。

(b)の作用効果については、前記(一)(4)において判断したところと同様であつて、本願考案の構成に限つて特に生ずる効果であるとは認められない。

また、前記(二)において判断したとおり、本願考案は、内枠を回転軸により回動自在に軸着する構成に限定されているわけではないから、(c)及び(e)の作用効果を当然に奏しうるものとはいえない。

前示のとおり、本願考案は外枠主体の下端部に設けられた鉤状突縁上に周囲の天井板端部を係合載置し、外枠の内側には内枠を係止する構成であるから、(d)の作用効果を奏するが、他方、引用例のものも枠体下端部にある透光板枠の折返し部に周囲の天井板端部を係合載置し、外枠の内側に透光板を係止するものであるから、(d)と同様の作用効果を有することが明らかであり、したがつて、(d)も本願考案の奏する顕著な作用効果であるとすることはできない。

(f)の作用効果は、すでに(一)(4)において判断したとおり、本願考案の奏する作用効果とは認められない。

したがつて、本件審決が、本願考案と引用例のものとの対比判断において、原告の主張する(a)ないし(f)の作用効果に触れず、本願考案の進歩性を否定したとしてもその判断に誤りがあるものとすることはできない。

三  よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は、これを失当として棄却する。

〔編註〕登録請求の範囲および審決理由の要点は左のとおりである。

本願考案の登録請求の範囲

(一)  補正前の登録請求の範囲

外枠主体の下端部に、天井板端部を係合載置する外方に突出する横向きの鉤状突縁を設け、内側には内枠を係止してなる天井点検口の外枠。

(二)  補正後の登録請求の範囲

外枠主体の下端部に、天井板端部を係合載置する外方に突出する横向きの鉤状突縁を設け、内側には、内方に突出する鉤状突縁上に天井板を載置した内枠を回動自在に係止するようにした天井点検口の外枠。

補正却下決定の理由の要点

(一)  本願考案について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達後である昭和四七年二月二一日にされた補正にかかる実用新案登録請求の範囲の記載は、前記二項(二)に掲記のとおりである。

(二)  右補正後の本願考案と本願考案の登録出願前国内に領布された刊行物である「アーキテクチユラル・カタログ・フアイル一九六一年版」(ニユーヨーク市、スイーツ・カタログ・サービス発行)20a/Naの項第一〇頁、第一一頁(以下、「引用刊行物」という。)に記載されたもの(別紙図面C参照)とを対比すると、両者は外枠主体の下端部に、天井板端部を係合載置する外方に突出する横向きの鉤状突縁を設け、内側には、内方に突出する鉤状突縁上に板状体を載置した内枠を回動自在に係止するようにした天井の部分構造である点で一致し、補正後の本願考案が、天井点検口であつて、内枠の内方突出縁上に天井板を載置したのに対し、引用刊行物記載のものが、天井の明り取り用枠であつて、内枠の内方突出縁上には格子板を載置した点において相違している。

しかし、天井点検口の外枠も天井の明り取り用枠も、ともに天井の一部に設けるものであつて、きわめて親近関係にあるものであり、かつ、天井点検口においてその外枠の内側に内枠を回動自在に係止することは、従来周知に属すること(例えば、実用新案出願公告昭三九―一二四六八号実用新案公報参照)であるから、引用刊行物記載のものにおける格子板に代えて天井板を用いて補正後の本願考案のような天井点検口を構成することは、当事者であればきわめて容易にできる程度のことである。

右のとおり、補正後の本願考案は、引用刊行物に基いて当業者がきわめて容易に考案することができたものというべきであるから、実用新案法第三条第二項の規定に該当し、出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。

(三)  したがつて、本願考案についてされた前記補正は、実用新案法第四一条、特許法第一五九条第二項、第六四条第二項の規定により準用される同法第一二六条第三項の規定に違反するので、実用新案法第四一条、特許法第一五九条第一項の規定により準用される同法第五四条第一項の規定により却下する。

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